展覧会の記録|exhibition archives 2024

「逃げ水をすくう」

2024年2月16日(金)〜3月3日(日) The Terminal KYOTO

 

逃げ水をすくう − 砂漠や暑い日のアスファルト道路で遠くに水があるように見える蜃気楼の一種。近づくと消え再び遠くに現れることから、まるで水が逃げていくように見える気象現象。

 

「こうしたい」「こうなりたい」という希望や願いは、逃げ水の様だ。追いかけていくと見えなくなり、想いが成就したとしてもそれは儚い存在になって再び新たなものを追求する。先が見えない時代を生きる現代人はよりよく生きるための何かを常に探し求める。 作家の心持ちもこれに近い。作品が完成しても改善すべき点が浮かび上がり、新たな課題として思考し制作する。それは繰り返され果てることがないが、それでも作家は「本当の水」を求めて日々探究していく。 この展覧会では、各々の作家がさまざまなアプローチで追い求める「水」を展示する。日常の現象や自然に着目した作品、社会テーマを扱った作品、通常の画材、技法とは異なる素材やデジタル機器を用いた作品、自身の内面を表出した作品など。伝統ある京町家の空間に展開した作品 = 逃げ水=掴みどころのない水は、果たしてすくうことができるのだろうか。  

 

2024年2月 逃げ水をすくう実行委員会



「野中 梓 展」

2024年2月6日(火)〜2月11日(土) KUNST ARZT

 

近年、自宅の壁面や冷蔵庫、テレビ画面など、毎日目にする物の平らな表面を見ながら油絵を描くことを続けている。私が見ていても見ていなくても、その対象はただそこに在る。普段は気にも留めていないが、関わろうと働きかけたとき(油絵具でその色や光や影を描こうと試みたとき)に、ふと見つかる。そこには「冬の陽の向きじゃないとこの壁に光は当たらないのか」とか「冷蔵庫そのものは白色だけど、廊下の電気と床の反射でこんな色になるのか」とか、ささやかな発見と感動がある。制作時には、描く対象を直接見て描くことを心掛けている。夕方、小窓から陽が差す時のトイレの壁を描きたい時は、数日おきに夕陽が差す時間帯にトイレに座って絵を描く。

 

それまでなんともなかったものが、特別なものに変わること。自分の中にある何かをひねり出すのではなく、自分の外にある何かに出会っていくこと。そんな瞬間を大事にしながらこれからも絵を描いていきたいと考えている。

 

2024年2月 野中 梓