展覧会の記録|exhibition archives 2019

「野中 梓 展」

2019年10月28日(月)〜11月2日(土) Oギャラリーeyes

 

-よせてはかえす- 

わたしはこれまで主なモチーフとして、白い壁面の片隅や白い布の波打つ襞、それらの部分を切り取って描いてきた。そして年々モチーフの部分へと寄っていき、画面上に現れる姿は曖昧な形になっていった。主な理由は二つある。一つは、具体的な形象によって過剰に意味が生まれること・鑑賞者が何かを読み解こうと努めてしまうことを避けるためである。わたしの制作上の関心は描くことそのものにあるからだ。もう一つは、輪郭線でたどることの出来ない絵を描きたいと思うようになったためである。モチーフの表面に移ろう光と影、色の調子を、油絵具で描くことに重きを置いているからだ。

壁や布をそれとわかる形で描いていた頃は、像がこちら側に立ち昇ってくるような・立体的に描き起こしていくような感覚だったが、この頃は画面に対しあちら側へ没入していくような感覚に変わってきている。何かに例えるなら、霧の中や、筆洗器の底、淀んだ川の中を覗いているようだと思う。そのような連想をした事から、(継続して壁や布を描きつつも)今回は新たに濁った水面の絵を描いた。

 少しずつ描く対象は変化してきているが、わたしの関心は依然として、白い油絵具、白濁した色、それらの絵具によって画面上に現れる光、空間にある。

 

-oil-

このシリーズは、今年7月に開催された「新・輝いて麗しの油絵具」への出展にあたってギャラリーから出された“宿題”がきっかけで描き始めた。その内容は「油絵具をモチーフにして油絵を描くこと」だった。わたしはそれを受けて、油絵具を見て描くことにした。まず眺められる状態にするために、板やキャンバスに油絵具を塗って、モチーフを作成した。チューブから出したままの単色をモチーフにして描いたのでは支持体に色を塗る行為をただ2回繰り返すことになってしまうのではないか?と思ったので、なるべく塗り重ねたり、混色したりした。また外的な影響を受けるよう、ツヤを出す溶き油を混ぜたりもした。そうして出来上がったモチーフの表面を眺め、油絵を描いた。

これまでに描いた絵とあえて比較するならば、この《oil》の連作は具体的な形の無い、ただ色が塗られただけのものに見えるかもしれない。しかし布や壁や川を描くことと同様に油絵具(を塗った板)という対象が実在し、やはりその表面に移ろう光と影、色の調子が起点となっている。画面いっぱいに描かれた色が像なのである。

2019年 野中 梓



「新・輝いて麗しの油絵具」

2019年7月8日(月)〜7月13日(土) Oギャラリーeyes



「HANKYU ART FAIR Neo SEED」

2019年6月26日(水)〜7月1日(月) 阪急うめだ本店 9階 祝祭広場

 

 壁を眺めたとする。そこに手を触れれば、触れられるのはあくまでその表面である。その表面をモチーフに、油絵具を用いてキャンバスに描く。描く過程で画面を眺めると、例えば濁った川の水面のように、触れられる表面を抜けて奥行がありそうな錯覚を起こす。

 私はこれまで主なモチーフとして、室内の壁面や梁の一部、または白い布の襞の凹凸を扱ってきた。以前は像がこちら側に立ち昇ってくるような・立体的に描き起こしていくような感覚だったが、この頃はあちら側へ没入するような感覚に変わってきている。筆は確かに画面にぶつかり、表面に絵具が乗っかっているが、そこには空間が生まれる。

2019年 野中 梓



「7 days scene」

暮らしの貸し借りを再発見するウェブマガジン「OURS. KARIGURASHI MAGAZINE」の「7 days scene」にて作品を公開中。

 

7 days scene とは…

「気鋭の写真家やイラストレーターらと団地を訪ねて、撮影&スケッチを行います。その作品は、ほぼ毎日の更新にてご紹介していきます。思いがけない団地の姿に出会えるかも。」(OURS.より)