展覧会の記録|exhibition archives 2018

「野中 梓 展」

2018年10月15日(月)〜10月20日(土) Oギャラリーeyes

 

-絵具について-

 絵画を制作する際、絵具とイメージはお互いに影響し合っているように思う。描く対象を発見する際、距離を置いて眺めたそれに油絵具の質感を想起する事が、私にとっての1枚の絵の始まりである。何らかの物の表面に当たる光、そのなめらかな階調を描くには油絵具が丁度いい。その丁度良さとは何だろうか?

 油絵を描く中で白色の絵具は、まずそれ自体が絵具という物であり、絵の中に描かれた対象の固有色でもあり、またその対象に当たる光でもあるという点で、特別な存在であるように感じている。透過性のある絵具を重ねたり、白色絵具を織り交ぜて画面を白濁させたり、描く対象の持つ陰影をとっかかりにしながら画面に厚みを持たせていく。絵筆は画面に確かにぶつかるが、絵具の層が重なっていくうちにだんだんこちら側に立ちのぼっていくようでもあり、向こう側に没入していくようでもあるような、錯覚が起こる。今更ながら油絵が持つ特性に感心しながら、絵を描いている。

 

-イメージと意味について-

 描く対象は、白い布の襞の凹凸や壁面に落ちる影などの部分を選んでいる。日常生活の中でたまたま見つかる事もあれば、作為的に形を作る事もある。以前から部分的に切り取って描いていたが、布とわかるくらいの具体的な形はあまり必要ではないかもしれないと思い、近頃はさらに部分へと寄って行っている。

 これまでタイトルは、描く行為に対して名付けてみようと試みていたが、なかなかしっくりくる言い回しが見つからない。そのため今回は判断保留とし、全作品を無題とした。もし良い言葉が見つかればまた名付けるかもしれないが、名付ける事自体はさほど重要でもない気もしている。物語る事、意味を持たせる事、それらがもし絵画の主たる目的である場合、イメージや絵具は手段あるいは技術として振り分けられるだろう。私はできる事ならば後者を主として、描く行為そのものに意義を見出したいと思っている。

2018年 野中 梓